この小説のヒロインはコスプレが趣味だ
「ねぇ、これどう?」
「ん?あぁ⋯⋯そぉだなぁ、もうちょい髪が長くて」
「うんうん、それで?」
「髪の先はピンク色で胸はBじゃなくっぐぁ」
「っ〜胸がなに?」
「だからっ、そのキャラの胸はdっぁ」
「何?」
「なっ、なんでもございません」
「そう、なら良かった」
ニッコリと笑いかけるヒロインは毎月毎月自作の衣装を着て、キャラを演じる
演じるキャラの殆どは、ヒロインより胸がお──
ニコッ
──ゴホン、この小説のヒロインが演じるには無理があるものだ
毎度指摘するが辞めない
ちらりとうちのヒロインに目をやる
メモ帳に何かを一生懸命書き込んでいる
「今回のは微妙ぽいなぁ、来月はもっとこう──」
ブツブツ絶妙に聞き取れないレベルの声量
「はぁ⋯⋯」
メモ帳に書かれる内容は予想がつく
ほんとにくだらない無駄な作業
来月演じるキャラはどおせ⋯⋯
「ねぇ、あんたオススメの面白い漫画とかラノベとかアニメとかないの?」
「どんなジャンルがいいんだよ」
「ん〜可愛い子が沢山出てくるやつ!」
「ったくしょうがねぇな」
カバンから3冊のラノベを取り出し机に並べる
「このラノベは俺の好きな作家さんの2作品目で主人公の脳内に──」
これで再来月のコスプレキャラは決まった
あれから約1ヶ月後の週末
俺とヒロインだけの月一イベ
ヒロインは俺の予想を外し、普段と同じ姿で現れた
「じゃじゃん! 今日のコスプレは私だよ!」
「……何があった」
ヒロインには似合わない笑みを浮かべ頬をかく
「親にバレて、没収されちった。ごめん!今日コスプレできないや」
「んな事かよ⋯⋯」
ボソッと呟いた俺の言葉はヒロインには聞こえていない
ポリポリと頭をかいて面倒くさそうに演技する
「あ?何言ってんだよ⋯⋯お前」
「え?」
「今月もまた、俺の推しキャラのコスプレしてくれてんだろ
今日のは今までで1番いい出来栄えじゃねぇか?」
時が止まるうちのヒロイン
俺は頭をガシガシと掻きむしりあさっての方向を向く
「ただ⋯⋯俺の推しキャラはそんな顔しねぇはずだけどな」
この小説のヒロインはコスプレが趣味だ
だが決まってコスプレをした後1人反省会を開き、評価をつけ次演じるキャラを決めるため俺の好きなキャラを聞いてくる
「ねぇ、あの時の言葉もっかい言ってよ」
あれから数年経った今でも妻の趣味は俺の推しキャラのコスプレだ
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