「ねぇ、涙活って知ってる?」
「るいかつ?なんだそりゃ」
僕のベッドの上に寝そべり、頭だけ布団の外にほっぽり出しながら、彼女は言った。
「昨日友達から聞いたんだけど、なんかね〜、感動する映画とかを観て泣くことらしいよ」
「ふ〜ん、で?」
「他には落活ってのもあるらしいよ」
「だから何?」
「なんかさ〜、最近“なんたら活”って増えてない?」
「ん〜、まぁ新参ものが増えてる感はあるね」
「元々はさ〜、婚活とか就活とかしか聞かなかったけど、最近パパ活とかママ活とかもよく聞くし、なーんか変な感じしない?」
「変かどうかは知らんけど、お前の時間が数年前で止まってることはわかった」
「変じゃない?」
「変な例えしか出せないお前の頭が?」
「なんでも“活”をつけるのが」
「はぁ⋯⋯、別に良くないか?」
「はぁ、全くこれだからチミは⋯⋯」
「文句あんなら帰れ〜、俺はお前ほど暇じゃねぇんだ」
「もう! いいじゃんか、少しぐらい考えてよ」
「〜ったく、やっと起き上がったと思えば⋯⋯喚くな叩くな⋯⋯ ったく仕方ねぇな、じゃあまずはどういう種類の“変”かを具体的に説明してくれ」
「はいは〜い、なんか⋯⋯変じゃない?」
「お疲れ様で〜す」
「ごめんて、ごめんてば〜」
「ほら、なんかさ“活”って付くとちょっと変な活動なんじゃないかなって思わない?」
「あ〜、やってることの内容がってこと? それってさ、パパ活とかママ活ってワードがSNS上で出てたからじゃないのか?」
「ん〜んっ、多分そう」
「お前にとって“活”が付くものの基準、大元がパパ活やらママ活っていう悪いイメージの言葉だから、他のも変なものだって認識しちゃってるんじゃないのか?」
「なるほど⋯⋯」
「納得したなら、そろそろ帰れ。うちの晩飯は家族分しかねぇ」
「じゃあさ、他にどんな“活”があるのかな?」
「話聞いてたか? 帰れ」
「ん〜、朝活⋯⋯は結構聞くし⋯⋯部活とか?」
「⋯⋯たく、あとは妊娠するための妊活、子供を産むための産活、育てるための育活、自分が入る墓を探す墓活ってのもあるな」
「へ〜、結構あるね」
「だいたいは何かをするための前準備を指す言葉だな」
「へ〜」
「まぁ、略語にしても何を指してるか分かりやすいから増えてんのかもしれんし、何かを頑張ってる仲間を募るために言葉を作るってのもあるかもな。同じことを頑張ってる人は多いし、互いに励まし合ったりするんじゃね?」
「ふ〜ん」
「俺にはわからんけど、でも同じものを頑張ってる仲間がいたら、自分もやる気になるのかもな」
「へ〜」
「⋯⋯お前、飽きただろ」
「えっ⋯⋯ナンノコト?」
「とぼけても無駄だぞ。だんだん気の抜けた返事しかしてないだろうがっ」
「バレた?」
「バレたじゃねぇよ。さっさと帰れバカ」
「え〜、いいじゃん。おばさんも『いつでも食べにおいで』って言ってくれてるし⋯⋯」
「言ってても限度ってもんがあんだろうがっ! 週何回来るつもりだ!」
「8?」
「1週間は7日しかないのを知らないのか?」
「月火水木金土日⋯⋯わぁホントだ!」
「ホントだじゃねぇんだよ、早く帰れ!」
「もぉ〜寝そうだったのに⋯⋯ まだ夜だよ、お母さん」
「誰がお前なんか産むか! さっさと部屋から出てけ!」
──
数分後、彼女が帰ったあとでスマホを開くと、新しいメッセージが届いていた。
やぁやぁ、進展したかい?(20:17)
開いた途端に表示された、簡素な一文。
→いえ、何も⋯⋯それ以前に、引かれたかもしれません(20:20)
→何かあった?(20:24)
→まぁ⋯⋯色々⋯⋯そっちはどうでしたか?(20:25)
→ん〜、何とか目標は達成したけど、相手に変なことしちゃって⋯⋯君に話したくて(20:26)
→そうですか⋯⋯お互い上手くいきませんね(20:26)
→そうですね⋯⋯(20:27)
→じゃあ、まずはいつも通り軽く進展報告をしてから、互いに打開策を考えますか⋯⋯(20:28)
→わかりました(20:28)
————————————未読————————————
→では、今日も意中の相手を落とすため頑張っていきましょう。(08:11)
“〇活”──それは同じ目標を持つ人々が仲間を探し、集い、助け合い、励まし合うために生まれた言葉。
誰かに笑われたっていい。バカにされたっていい。
それでも、これがお前がやりたいことなんだろ?
→ええ、頑張りましょう(08:24)
スマホの画面を見つめながら、俺は軽く息をついた。
言葉にするのは簡単だ。けど、実際に行動するのは難しい。
それでも──
俺はスマホをポケットにしまい、布団から抜け出した。
今日も俺は、自分の信じる“〇活”を続ける。
誰に笑われようと、誰にバカにされようと、関係ない。
だって、俺は俺のやりたいことをやるだけだから。
だから──今日も活動していく。
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